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神格化しない、ブラック・ミュージック(第2回)
ジョニー・“ギター”・ワトスン

 いつも、思うことなんだけど。
 この人は本当に、“テキサン”(注1)なんだろうか?
 70年代以降の活動を見る限り、このオッサンが、ガンコモノの多い、テキサス出身の生粋のブルースマンであるとは、とても信じられない。

 まぁ、ひとつのキーワードとして、フランク・ザッパのアルバム(『One size fits all』 、『Them or us』)に参加したことで、なにかインスピレーションを得たと、考えられるんだけど…。
 それにしても、オツムの柔らかいオッサンじゃ。

 

 

 

 
 

 名盤、『エイント・ザット・ア・ビッチ』(1976年発表)のカヴァー・アートを見たことある?2人のオネイチャンが、「もう、ダメ…。」とばかりに色っぽくダウンしている後ろで、白いスーツにテンガロン・ハットをきめた、ジョニーがソファーに腰かけている。彼が自慢げに指し示す手の先に、ビッ!と背筋をのばしたワン公が…。大人のみなさんは、このワン公がなにを象徴しているか、すぐにわかるよね?(笑)
 こんなに、下品で猥雑なポーズをキメられるってのは、ひとつの才能なんだよ!

 才能といえば、ジョニーはこれ以降のアルバムで、ドラムとホーンセクション以外すべてのパートを、ひとりで演奏している。“下品で猥雑なマルチ・プレーヤー”と言われると、誰かの顔が思い浮かんでこない?
 そう、紫の王子こと、プリンス!
 変な表現だけど、ジョニーは“70年代のプリンス”なんだよ。

 70年代のジョニー・“ギター”・ワトスン(とくに、DJMレーベル時代の6枚)は、ブルースにとらわれずに、ファンクやソウルを積極的に取り入れながら、ブラックミュージックの最新形を提示した。で、そいつがポップで、ものスゴク聴きやすいんだよ。ブラック・ミュージックの入門編であり、集大成である。そんな感じかな?この手法から、プリンスが連想されるんだ。実際プリンスは、かなりジョニーから影響を受けているハズだ。

 ただし、音のイメージは、あくまでもクール。投げやりな歌い方と、ペケペケしたギターは彼のトレードマークだ。実は、これが、“テキサン”の伝統的な演奏スタイルなんだけど、モダンで都会的なアレンジと、よくマッチしているんだよね。

 

 

 

 クールさと、下品で猥雑なファッションがブレンドされると、ムチャクチャかっこいいんだな。でも、この両者のバランス感覚は微妙で、どちらか一方に片寄ると、かっこよさが薄れてしまう。クールを通り越してソッケないモノになるか、お下劣で低俗なモノになってしまうか。ジョニーは、このへんのツボをよく心得ているんだよ。プリンスは、ジョニーほどクールではないので、少しお下劣さが鼻につく、というわけだ。

 猥雑だけどカッコイイ、っていう感覚はロック・ミュージック特有の美意識だ。そいつをさりげなく体現できる、ジョニー・“ギター”・ワトスンは、やはり天性の才能を持っているミュージシャンといえるのだ。
 未体験の人は、すぐに体験すべし!そして彼が、“ブルース”とか“ブラック・ミュージック”とかいう、狭い枠で語られるべきミュージシャンではないということを知ってほしい。

(注1)テキサス人。テキサス出身者を指す。

PS1:この頃のアルバム・ジャケットの必ず登場するのが、ナイスバディのオネイチャンたち。どの娘もみなイイオンナである。そして、いっしょに登場するジョニーは、やたらうれしそうだ。(笑)
 そして、『エイント・ザット・ア・ビッチ』の犬、『ア・リアル・マザー・フォー・ヤ』のベビーカー、『ファンク・ビヨンド・ザ・コール・オヴ・デューティ』の大砲、と小道具がイミシンに感じれらるのは、俺が“えっち”だからかしらん?(笑)

PS2:オネイチャンと共に、よくジャケットに登場するのがギター。ES-335やエクスプローラ、SGなんかを見かける。どうも、ジョニーは“ギブソン党”のようだ。
 あの、まったくサスティーンがかかっていない、“ペケペケ”トーン。アメリカでは、ポテトチップスを割ったような、乾いた音ということで、“CRISPY!”と表現するそうな。筆者はフェンダー・ムスタングで、この音を再現して喜んでいたが、前述の通りジョニーは“ギブソン党”なのだ。イメージ的には、ギブソンとこのトーンが結びつかないんだけど、2ハムのトグルスィッチを真ん中にして、ヴォリュームを半分ぐらいまでしぼって、アンプのMIDDLE・TONEをゼロまで下げると、ジョニーの音が出るハズ。こんな、一筋縄でいかない楽器の使い方も、またクールってワケだ。

PS3:『エイント・ザット・ア・ビッチ』収録のヒット曲、「スーパーマンズ・ラヴァー」のサビの部分は、いつ聴いても、♪スッパマンズ・ラヴァー♪と聴こえる。そのたびに、“ウメボシ食べて、スッパマーン!”(DR.スランプ)を連想してしまうのは、俺だけ?(笑)

 

 

 

   
画像提供:sumoriさん