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神格化しない、ブラック・ミュージック(第5回)
ロイ・エアーズ
     

 「ブラン・ニュー・ヘヴィーズとジャズファンク」の項で触れたように、1990年代の“アシッド・ジャズ・ムーブメント”は、それまで不遇をかこっていた多くのミュージシャンにふたたびスポットライトを当てるきっかけとなった。

 今回紹介する、ロイ・エアーズもそのひとりである。
 ただ、ロイ・エアーズの場合は“再評価”というよりも、“ようやく時代が彼に追いついた”と表現した方が適切と思われる。それほど、ロイ・エアーズの音楽性は先進的であり、独創的なものであったのだ。

 ロイ・エアーズはヴィブラフォン奏者である。
 小学校時代に、木琴を演奏したことがある方も多いだろう。ヴィブラフォンは、木琴を大型にして複雑な構造にし、より豊かな響きを得られるようにした楽器である。ジャズの世界では早くからメロディ楽器として認知されており、すでに1950年代にはミルト・ジャクソンという偉大なミュージシャンを出現させるに至っていた。
 ヴィブラフォンは、他の楽器では表現することができない、独特の“浮遊感”を持っている。そして、ロイ・エアーズの音楽性を語る際に、この“浮遊感”という言葉は重要なキーワードである。

 1960年代後半に音楽活動を開始したロイ・エアーズは、ジャズ・ミュージシャンでありながらあまりジャズに深入りせず、R&Bやソウルに接点を求めるようになった。ヴィブラフォン奏者でありながら、ロイ・エアーズはけっして演奏に没入することなく、あくまでも“歌心”を大切にしたのである。そう、彼は単なるヴィブラフォン奏者ではなく、“歌う、ヴィブラフォン奏者”だったのだ。これが、長い期間にわたってロイ・エアーズの評価を妨げる要因となったのであるから、皮肉な話しである。

 純粋なジャズ・ミュージシャンでもなく、また純粋なソウル・シンガーでもない。

 しかし、ロイ・エアーズはそんな世間の評価を気にすることなく、ひたすら自分の音楽を追求し続けた。1970年代に入り、ラテン~アフロ・キューバン・ミュージックへ傾倒した彼は、1979年にナイジェリアを訪れフェラ・クティと出会った。
 “アフリカのジェイムズ・ブラウン”と異名を取るフェラ・クティとの出会いは、かなり衝撃的であったようだ。ロイ・エアーズはフェラ・クティとの共演で、多くの傑作を残している。しかし、まだ時代は彼に追いついてこなかった。

 経歴を見ればわかると思うが、ロイ・エアーズは常に時代の一歩先を歩いているのだ。フュージョン・ムーブメントが到来する以前にR&Bやソウルに接点を求め、ワールド・ミュージック・ムーブメントが到来する以前にラテン経由でアフリカへ到達してしまっている。

 

 

 

90年代を代表する、ロイ・エアーズの2枚。
『GOOD VIBRATIONS』は、1993年イギリスはロンドンにおけるライブ盤。
『DOUBLE TROUBLE』は、1994年発表の旧作のリメイク盤。共演は、あのリック・ジェイムズ。
   

 1980年代半ば、ロイ・エアーズは有能な“参謀”を自身のバンドに迎え入れた。
 デニス・デイヴィス、である。
 デニス・ディヴィスは、グラム・ロック以降のデヴィッド・ボウイのバックで、ドラムを叩いていた男だ。アルバムでいうと、『ヤング・アメリカンズ』から『スケアリー・モンスターズ』まで。ロック史に残る名盤『ステイション・トゥ・ステイション』、『ロウ』、『ヒーローズ』でドラムを担当したのは、彼である。
 デニス・ディヴィスはドラムを叩くだけでなく、サウンド・クリエイターとしての才能も充分だった。ボウイ時代に養った、先鋭的な時代感覚。そして、コンピューターをはじめとする、最新の機材に対応できる柔軟な頭脳。
 デニス・デイヴィスの加入によって、徐々に時代のスポットライトが、ロイ・エアーズに当たりはじめたのである。

 デニス・デイヴィスは、ロイ・エアーズの往年のヒット曲「EVERYBODY LOVES SUNSHINE」や「RUNNING AWAY」を、新しい解釈で再現した。
 コンピューターを駆使した無機質なビートの上に、ロイ・エアーズの歌とヴィブラフォンが乗る。硬と軟の対比。これによって、ロイ・エアーズの持つ独特の“浮遊感”はかえって強調されることになったのだ。このクールで繊細なサウンドは“都会的”であるとされ、クラブ・シーンから絶大な支持を受けたのである。
 こうして、ロイ・エアーズは不動の地位を確立した。
 イギリスのジャズ評論家の間では、「現代を代表するジャズ・ミュージシャン」と絶賛されている。たしかに、最近の作品のクオリティは高く、往年のヒット曲も新曲のような輝きを見せている。そして、全編を支配している独特の“浮遊感”が、ひたすら気持ちイイのである。

 数年前に、どこかのジャズ・フェスティバルの映像をBSで見たが、そこでロイ・エアーズはジャズの定番「チュニジアの夜」を演奏していた。独特の“浮遊感”こそただよっていたが、演奏自体はまぎれもなく“ジャズ”であった。デニス・デイヴィスはきっちりとドラム・ソロをこなしているし、ちょっと肩すかしを食らわされたような感じがしたものだ。
 本当に“奥が深い”ミュージシャンなんだぁ。食えねぇヤツ。(笑)