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コレクターにならずに、ユーロ・ロックを聴く方法(第3回) アトール アトールは、“フランスのイエス”と呼ばれている。 セカンド・アルバム『夢魔』(L'araignee-mal)は、日本でもっとも人気のあるユーロ・ロックのアルバムである。機会あるごとに企画される、ユーロ・ロック廉価版シリーズで、いつもメインの扱いを受けていることが、これを証明している。 なぜ、アトールはここまでウケるのか? 抜群の歌唱力を誇る、アンドレ・バルツァー(Andre Balzer)のヴォーカルは、フランス語のエキゾチックな響きをともなって、リスナーの前に色彩やかな景色を現出させる。各演奏者のテクニックの高さは、インストナンバー「カゾットNo1」(Cazzotte no1)を聴くまでもなく、各曲の完成度から窺い知ることができる。そして、全編を支配している、ヴァイオリンの印象的な旋律が耳に残る。 このヴァイオリンが、“おフランス!”としか言いようのないものなのだ。(笑) フランス人には迷惑な話しだろうが、日本人が勝手にイメージする、“フランス”の香りがここに充満している。日本人は、“フランス”から何を連想するのだろうか?エキゾチック、優雅、ファッショナブル、退廃、夕暮れ…。これらすべてのイメージを、アトールは満足させてくれる。 「恍惚の盗人」(Le Voleur D'extase)という曲があるが、美し過ぎる“フランス”の香りに、タイトル通り恍惚としてしまうのは、俺だけじゃないだろう? 彼等は、日本人がイメージする、“フランスのロックはこうあるべきだ”という音を出してくれるグループなのである。 | |
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そんなアトールに、ユーロ・ロックの入門編あたりで出会ってしまうと、逆に不幸な事態を招くことになる。「フランスのロックってイイじゃん!もっと、他のグループも聴いてみよう」。そして、果てしない、ユーロ・ロックのコレクションへ突入してしまう。 アトールの『夢魔』は、フレンチ・ロック界屈指の名盤である。つまり、めったなことでは、これと同レベルの作品には出会えないはずだ。いや、ことフレンチ・シンフォニック・ロック界においては、これ以上はおろか同レベルの作品さえ見当たらない位の、最高峰といえる完成度を誇っているのだ。当然、『夢魔』の後に手に入れる、フレンチ・ロックのアルバムからは、なんとなく物足りなさを感じてしまうだろう。 買っても買っても、満足の得られるアルバムに出会わない。気がついたら中古盤ショップへ、大量のアルバムを持ちこんでいた…。こんな経験を持つ人が、いったいどれほど存在しているだろうか?かく言う俺も、その一人である。 ユーロ・ロックに対する我々の最大の誤解は、ヨーロッパ各国にその国のカラーを反映させたシーンがあるだろう、という錯覚を起こすことだ。 たしかにヨーロッパ各国では、イギリスのプログレッシヴ・ロックバンドの人気が高い。しかし主流はあくまでも、英米の(プログレではない)メジャー・グループなのだ。そして、それらをお手本とし、それぞれの国の言語で歌うグループが必ず存在する。その種のグループが、国内で熱狂的な支持を受けるのだ。現在の日本における、J-ROCK・J-POPSといったシーンを連想すれば、すぐ理解できるだろう。これとよく似た状況が、ヨーロッパ各国で展開されているに過ぎないのだ。 各国のカラーを反映させたグループなど、ほんの一握りしか存在していない。しかし、ユーロ・ロック・ファンは、その一握りの作品に出会うために、大量の出費を余儀なくされるのだ。そして俺は、これ以上犠牲者を増やさないために、このコーナーを企画したというワケだ。(笑) こういった事情を充分承知した上であれば、アトールは一度聴くべき価値があるグループだ。『夢魔』はもちろん、その次の『サード』(Tertio)もおススメする。老若男女を問わず、少しでもプログレッシヴ・ロックに興味がある人は、100%満足を得ることができる作品である、と断言しておこう。
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PS1:ヴァイオリン奏者の、リチャルド・オーベルト(Richar Aubert)は、『夢魔』発表後グループから脱退している。したがって、“おフランス”なヴァイオリンが聴けるのは、このアルバムだけである。また、アトールは、その後もギタリストのクリスチャン・ベヤ(Christian Beya)を中心に活動を続け、1989年には来日も果たした。しかし、なぜかヘヴィ・メタル色が強くなっていて、『夢魔』の頃とは別物だった。ヨーロッパのグループには、このように、シンフォニック・ロックからヘヴィ・メタルへと変貌を遂げる例が少なくない(イタリアのカリオペなど)。なぜだろうか?謎である。 PS2:フランスで人気が高い、イギリスのプログレッシヴ・ロックバンドといえば、ジェネシス、ピンク・フロイド、ジェントル・ジャイアント…。ソフト・マシーンの人気も高いようだ。これが、イタリアになると、EL&Pがダントツになるらしい。バンドの好みにも、国民性が表れているようで、なにやら興味深い。それにしても、ジェントル・ジャイアントというグループは、本国イギリスよりも、他のヨーロッパ諸国における人気が圧倒的に高い。しかし、その理由がいまだによくわからない。またもや謎である。
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