コレクターにならずに、ユーロ・ロックを聴く方法(第4回) アイランド 何本かの消滅線が一点に交差し消えて行く、人は古来これを“宿命”と呼ぶ。 アイランドの『ピクチャーズ』は、劇的な“宿命”に彩られた作品だ。 アイランドというグループが、いつ頃からどのような活動をしていたのかについては、まったく記録が残っていない。ライヴ活動を行っていた痕跡すら、認められないのだ。わかっていることは、スイスのグループであるということと、このアルバムを録音したメンバーの氏名だけである。そして、『ピクチャーズ』というアルバム1枚だけを残した。 Benjamin Jager(Lead vocals, Percussion) Guge Jurg Meier(Drums, Percussion) Peter Scherer(Keyboards, Pedal-bass) Rene Fisch(Saxes, Flute, Clarinet) メンバーのうち、ペーター・シェーラー(Peter Scherer)はアイランド解散後、ドイツでクラシック音楽を学び、その後ニューヨークへ移りアート・リンゼイとアンビシャス・ラヴァーズを結成。2枚のアルバムを残し、2度の来日を果たしている。 しかし、残りのメンバーの動向はまったくわからない。また、ペーターは、「グループは、アルバム発表前に解散していた。」という衝撃的なコメントを残している。 アイランドは、『ピクチャーズ』を録音した時点で、消滅していたのだ。 ギタリストもベーシストも不在という、変則的なメンバー構成でありながら、おそるべきほどに緻密なアレンジをほどこされた楽曲群。おそらく、譜面を先に書き、それに従って演奏したのだろう。和声理論をフルに活用したような、精巧な鍵盤楽器の積み重ね。変拍子だらけ、というよりもまともなロックのリズム・パターンが1個所も存在していない、複雑なリズム。ペダル・ベースを踏みながら、数多くのキーボード群をこなすペーター・シェーラー以上に、このような楽曲を正確に演奏したドラマー、Guge Jurg Meierの力量が特筆に値する。このドラマーの存在がなければ、このアルバムの躍動感は半減していただろう。 そして、この端正な音空間を切り裂く、フリーキーな管楽器とパーカッション。断片的でインパクトの強い言葉をバラまく、ヴォーカルの存在も印象的である。 計算された緻密さと、意外性をともなったフリーキーさ。相反する要素を絶妙なバランスで保つことによって、アルバム全体に秘教的な世界を展開している。 | |