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だまって、コイツを聴いてくれ!(第2回) | |
「ジョー・コッカー/ウィズ・ア・リトル・ヘルプ・フロム・マイ・フレンズ」 JOE COCKER/WITH A LITTLE HELP FROM MY FRIENDS | |
| CD/A&M490419 1969年 | | | | |
1.FEELING ALRIGHT | |
2.BYE BYE BLACKBIRD | |
3.CHANGE IN LOUISE | |
4.MARJORINE | |
5.JUST LIKE A WOMAN | |
6.DO I STILL FIGURE IN YOUR LIFE? | |
7.SANDPAPER CADILLAC | |
8.DON'T LET ME BE MISUNDERSTOOD | |
9.WITH A LITTLE HELP FROM MY FRIENDS | |
10.I SHALL BE RELEASED | |
pict from rockinwoman.com | | | |
正月の深夜映画で放映された、映画「ウッドストック」をはじめて観たのは、1976年のこと。俺はまだ、中学3年だった。当時はビデオなんかなかったから、昼間さんざん睡眠をとって夜にそなえるしかなかった。お目当ては、もちろんジミヘンだ。壮絶な「アメリカ国歌」のウワサは、すでに俺の頭にインプットされていた。「ジミヘン観たら、寝よう。」これが、甘かった。ジミヘンの出番は、ラストなのだ。おかげで俺は、いきなりこの映画を全編、体験することになった。 当時の雰囲気を伝える、インタビューや会場設営の光景が延々と続く。リッチー・ヘヴンスの登場によって、待望の“音”が始まるが、もともと好みの音でもないので、すぐに飽きてしまう。すると、またインタビューだ…。激しい睡魔と闘いながら、映画「ウッドストック」は進行した。「早く、ジミヘン出てこいよぉーっ。」イライラがピークに達した時、とつぜん画面がハレーションを起こしたように、真っ白になった。ザ・フーの登場である。カッコイイ!数あるロック映像の中でもトップクラスのパフォーマンスによって、俺の眠気はイッキに吹き飛んだ。続いて、シャ・ナ・ナ が、コミカルなパフォーマンスで盛り上げる。俺はワクワクしながら、当時の音の洗礼を受け始めた。ここが、映画「ウッドストック」前半のピークである。 そして、問題の男が、画面に登場した。 若いんだか、若くないんだか、一見よくわからないオッサンが、ちょっと飛び出した腹を、絞り染めのTシャツにおさめ、星柄のブーツでつま先立ちをしながら、ギターを弾くような身振りで歌い出した、「ウィズ・ア・リトル・ヘルプ・フロム・マイ・フレンズ」は、俺のオツムから睡魔を追い出して、まだ余りある超ド級の衝撃だった。曲がいいのはもちろんだが、独特の声による説得力は強力だ。俺は、ハスキーヴォイスとかダミ声が大好物なのだ。この時から、ジョー・コッカーは、ポール・ロジャース、ロッド・スチュワートと並ぶ、カッコイイ声の御三家になった。ジミヘンのことは、すっかり頭から離れてしまっていた。 | |
| | 数日後、俺はLP『ウィズ・ア・リトル・ヘルプ・フロム・マイ・フレンズ』をGETした。 LPの裏ジャケを見て、もう一度衝撃を受けた。 そこには、見慣れたカーリーヘアで片目をかくした、ゲゲゲの鬼太郎、じゃなかったジミー・ペイジの姿が…。さらにジミー・ペイジの他、トラフィックを解散した直後のスティーブ・ウィンウッドやプロコル・ハルムのメンバー、後にウィングスに参加するヘンリー・マックロー、スプーキー・トゥースのドラマーだったマイク・ケリー、アルバート・リー、ミキシング・エンジニアにはトニー・ヴィスコンティ。70年代のブリティッシュロック・シーンをリードする若手ばかりで構成されているバック陣が、そこに勢揃いしていたのだ。この、超豪華版の参加メンバーは、このアルバムのもうひとつの目玉だ。 収録されている10曲のうち、7曲がカヴァーである。レコーディングに参加したスティーブ・ウィンウッドのペンによる、トラフィックの「フィーリング・オールライト」、ソウルスタンダードの「バイ・バイ・ブラックバード」、ディランの「女のように」(JUST LIKE A WOMAN)、「アイ・シャル・ビー・リリースト」、アニマルズでおなじみの「悲しき願い」(DON'T LET ME BE MISUNDERSTOOD)、そしてレノン&マッカートニーの「ウィズ・ア・リトル・ヘルプ・フロム・マイ・フレンズ」。どの曲も、オリジナル・ヴァージョンよりはるかにカッコイイ!後に、「青い影」をリバイバル・ヒットさせたことからもわかるように、ジョー・コッカーはカヴァーが得意だ。そして、どんな曲でも自分のモノにしてしまう。強引なほど説得力のある歌唱スタイルは、他に類を見ないものだ。彼の歌声を聴くと、魂をわしづかみにされたような気分になってしまう。 | |
↑このアルバムに参加した頃の、 ジミー・ペイジ pict from led-zeppelin.com | |
俺のお気に入りは、ピアノが大きくフューチャーされた「フィーリング・オールライト」。そしてハモンドオルガンのトーンが切ない「女のように」。「フィーリング・オールライト」は、トラフィックのオリジナル・ヴァージョンよりも、はるかに完成度が高いんじゃない?ラテン風のアレンジが、ジョーの情熱的な声によくマッチしていて、文句なくカッコイイのだ!ソウルバンドっぽい、女性コーラスの使い方も心憎いばかりで、まさにオープニングを飾るにふさわしいナンバー。対する「女のように」は、むせび泣くようなジョーの声が感動的だ。その歌唱スタイルからすると、感情表現が過剰になりがちと思われるが、ジョーは適度の抑制を効かせてセーブしながら、絶妙の盛り上げ方で曲を進行させるのだ。彼が稀代のヴォーカリストであることを、証明しているようなナンバーである。これを聴くたびに、胸が熱くなるのは、俺だけじゃないだろ? バック陣で特筆すべきは、ジミー・ペイジのプレイだ。この後レッド・ツェッペリンで昇華させる、ソロのキメに派手な早弾きをもってくる手法を、「バイ・バイ・ブラックバード」で披露している。もっとも、この段階ではまだ、リズムが走ったり、指がもつれてミストーンが出ていたりと、未消化な部分が見えるけど…。これにOKを出した、トニー・ヴィスコンティのセンスもすごいが、ジミー・ペイジったら他人のレコードで好き放題、まったく傍若無人なヤツである。(笑) このように、『ウィズ・ア・リトル・ヘルプ・フロム・マイ・フレンズ』では、充実した歌と演奏を堪能することができるが、その根底にあるモノは、まぎれもなく音楽に対する“情熱”である。 このアルバムからは、“今まさに何かが始まろうとしている瞬間”の情熱を、感じとることができるのだ。 来るべき1970年以降のシーンを標榜する、明日への希望に満ちあふれたアルバム。それが、『ウィズ・ア・リトル・ヘルプ・フロム・マイ・フレンズ』だ。 ジョー・コッカーの声は、未来への扉を開く、魂の叫びだ!さぁ、みんな、このアルバムを聴いて、ロックのもっとも輝いていた時代を感じとろうぜ!
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PS:プロコル・ハルムのドラマー、B・J・ウィルソンは、ジョン・ボーナムと出会う以前のジミー・ペイジが、レッド・ツェッペリンのドラマー第一候補として考えていた人らしい。裏ジャケに写っている、B・J・ウィルソンの写真を見ると、きわめてルックスがよい!この人がドラマーになっていたら、レッド・ツェッペリンは、また違った評価を受けていたかもしれない。
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| 画像提供:led-zeppelin.com | |
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