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だまって、コイツを聴いてくれ!(第5回)
マホガニー・ラッシュ/鋼鉄の爪
MAHOGANY RUSH/MAHOGANY RUSH 4
CD/SONY RECORDS SRCS 6244 1976年

1.I'M GOING AWAY

2.MAN AT THE BACK DOOR

3.THE ANSWER

4.JIVE BABY

5.IT'S BEGUN TO RAIN

6.DRAGONFLY

7.LITTLE SEXY ANNIE

8.MOONWALK

9.4…(THE EMPEROR)
         

 1968年のこと。
 LSD中毒の療養のため入院していた、14歳の少年のベッドがとつぜん白光に包まれた。そして、少年は何かに憑かれたように、ある野外コンサート会場へ足を運び、ジミ・ヘンドリックスの音の洗礼を受けた。以来、少年はギターを手にし、プロ・ミュージシャンを目指した。
 マホガニー・ラッシュのリーダー、フランク・マリノがデビュー当時に語っていたエピソードだ。マユツバものの話であることは一目瞭然だが(笑)、ジミ・ヘンドリックスのパワーが、ジャンキーを社会復帰させるほどの威力を持っていたことだけは、疑いようのない事実だ。ナマで見たのだから、さぞかし強力であったことだろう。

 虎は死して皮を残す、ジミヘン死してフォロワーズを残す。
 1970年9月18日、ジミ・ヘンドリックスが不慮の死を遂げて以来、フォロワーズの出現は後を絶たない。そのピークに達していたのが、70年代の中盤だ。
 イギリスでは、プロコル・ハルムを脱退したロビン・トロワー。ドイツでは、スコーピオンズ躍進の立役者ウルリッヒ・ロス。そして、カナダから登場したのが、マホガニー・ラッシュを率いるフランク・マリノ。そう、ジャンキーから社会復帰した少年だ。
 前述の3人の中で、もっともジミの面影を伝えていたのは、間違いなくフランク・マリノだ。彼の演奏する「パープル・ヘイズ」は、あまりにもジミに酷似していたため、一部の音楽ファンから冷笑を買ったほどだった。冒頭のエピソードは、そんな世間の冷笑を逆手にとったものとも考えられる。「ジミは、オレの守護霊なんだぜ~」と。

 しかし、そのような先入観を抜きにしても、マホガニー・ラッシュが1976年に発表したアルバム『鋼鉄の爪』は、もしジミが生きていたらきっとこんな作品を作っただろうと思える内容になっている。俺は、これほどジミのDNAを強く感じる作品を、他に聴いたことがない。

 オープニングは、メロトロンの響きも神秘的な
「アイム・ゴーイング・アウェイ」だ。この音に象徴されるように、プログレッシブ・ロックの影響を感じさせるアレンジが、アルバム全体を支配している。フランク・マリノが、ジミ・ヘンドリックスの手法をお手本としていることは、まず間違いない。ジミはサイケデリック・ロックのアレンジを使って、独特のスペーシーなサウンドを展開した。フランク・マリノはサイケデリック・ロックを、現代風にプログレッシブ・ロックに置き換えただけなのだ。
 
「マン・アット・ザ・バック・ドア」「ジ・アンサー」などはまさに、ジミ・ヘンドリックス直系のサウンド。きっとジミがプレイをしても、ぜんぜん違和感を感じないだろう。ウネるようにファンキーなリズム、テンション・コードを多用したカッティング、ヘヴィーなリフ。しかしフランク・マリノはジミと違って、けっして激しく燃え上がらず、ひたすらクールにプレイをする。このクールさが、フランク・マリノの特徴だ。アルバム最大の聴きものである、ヘヴィー・ファンクの傑作「ドラゴンフライ」では、そんな彼の持ち味が満喫できるはずだ。

 

 

   
ポール・ハーウッド(B)ジミー・エイヨブ(Ds)
2人は、学生時代からフランク・マリノを支え続けた。
 
     

 そんなフランク・マリノだが、他のジミ・ヘンドリックス・フォロワーズと一線を画している部分がある。それは、使用ギター。彼は、ジミ・ヘンドリックス・フォロワーズとしては珍しく、フェンダー・ストラトキャスターを使わないのだ。フランク・マリノの愛器は、ギブソンSG。ただし、数本所有していたSGは、いずれもかなり手が加えられていた。

 俺は、ストラトの3つのPUとシンクロナイズド・トレモロユニットを移植した、フランク・マリノ所有のSGジュニアを見たことがある。「ここまで改造するなら、ストラトを使えばいいじゃん。」と思ったが、ここに彼のコダワリがあるようだ。「ストラト・サウンドは嫌いじゃないが、SGのニュアンスの方がおもしろいんだ」
 “カリフォルニア・ジャム2”の映像が放映され、板バネ式バイブローラ・アームを装着したギブソン・SGスタンダードを持った、フランク・マリノの勇姿がブラウン管に登場した。そのあまりのカッコよさに、SGの人気が沸騰した時期があった。俺は今でも、世界でいちばんSGが似合うギタリストは、フランク・マリノだと思っている。そして、やはりSGは一本持っていたい。(笑)

 あまりにも、ジミ・ヘンドリックス的な側面から語り過ぎたので、少しフランク・マリノに失礼だったかな?ジミ以外の表現を使うと、マホガニー・ラッシュは、グランド・ファンク・レイルロードとマウンテンを融合させたような音だったと思う。(笑)いずれにしても、ブラック・ミュージックというアメリカ的な音と、プログレッシブ・ロックというヨーロッパ的な音が、ここまで理想的に融合した作品はそれほど多くないハズ。

 『鋼鉄の爪』は、70年代のカナディアン・ロック・シーンを象徴する作品である。
 黙って、コイツを聴いてくれ!

 

 

  ↑ギブソン・SGをかまえる、フランク・マリノ