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『地獄の軍団/キッス(DESTROYER/KISS)』(1976年発表)


SDE

1.デトロイト・ロック・シティ(Detroit Rock City

2.暗黒の帝王(King Of The Night Time World

3.雷神(God Of Thunder

4.地獄の遺産(Great Expectations


SIDE

5.燃えたぎる血気(Flaming Youth

6.スウィート・ペイン(Sweet Pain

7.狂気の叫び(Shout It Out Loud

8.ベス(Beth

9.ドゥ・ユー・ラブ・ミー(Do You Love Me


 『地獄の軍団』は、私が中学3年のときに手に入れた、人生で初めてのロックアルバムです。


 私は、「ミュージックライフ」のグラビアや、この頃ラジオでよく流れていた、このアルバムからの先行シングル「狂気の叫び」で、キッスの存在を知りました。


 今では信じられないことかもしれませんが、

 1970年代中期には、AM局に、ロック専門の電話リクエスト番組や、全米ヒットチャートの番組があり、当たり前のようにラジオから、英語で歌うロックが流れていたものです。


 私の記憶では、ベイシティローラーズやクィーンをはじめ、スィート、カーペンターズ…、そしてスタイリスティックスに代表されるディスコナンバーを演奏するグループが、当時(1975年~1976年)のヒットチャートの常連でした。


 私は、その頃すでに歌謡曲に退屈を覚えており、海外のシーンに興味を持っていました。それも、ヒットチャートの常連やビートルズのような主流派…、というより…、イイ子ちゃんカワイコちゃん的な存在ではなく、反体制派、よりヘヴィでハードな音を出す連中…、つまり、不良っぽく暴力的な存在にアコガレるようになっていたのです。


 思春期の私は、かなり世の中に対して反抗的であり、その表現方法も過激でした。思春期特有の、訳もなく内面から沸き上がる暴力衝動が、ヘヴィでハードな音を求めたことは、自然の摂理であったのかもしれません。


 私は「ミュージックライフ」で最初にキッスを見て以来、やってはいけないことをしている連中という印象を受け、その活動に関心を持っていました。当時の「ミュージックライフ」の多くの読者と同様、あのビジュアルでどんな音を出すのか、興味津々であったというわけです。


 そんなとき、ラジオから流れてきた「狂気の叫び」が、私の琴線をくすぐる、たいへんヘヴィなロックンロールナンバーであったので、アルバムを買わずにはいられなくなったというわけです。


 さて、LPレコードに針を落とすと、なにやら会話が聞こえてきて、車のエンジンをかける音…、続いて、走り始めた車内の様子が聞こえてくる中、「デトロイト・ロック・シティ」の有名なイントロが、ジャガジャガジャガジャガ…と登場し、ドラムのロールに導かれ、ギターがジャジャーンっときた瞬間、私は思わず、「カっ、カッコイーっ!」っと叫んでしまいました。


 ポール・スタンレイが、暴力的で荒涼とした背景の中、「I feel uptight on a Saturday night」と歌い出す頃には、「これがロックだっ、俺は今日からこれで行くんだ、もう後戻りはできないんだっ」などと意味不明な誓いをしてしまう始末。この1曲目の衝撃がいかにスゴいものであるかを、物語っているシーンといえるでしょう。


 つづいて、車の爆発音に、ギターのビヨーンというロングサスティーンがかぶり、2曲目の「暗黒の帝王」が始まります。友人に、この曲のリフが「いなかっぺ大将」の大ちゃん登場シーンで流れるBGMにそっくり、と言うヤツがいましたが、私はこの2曲の流れが大好きでした。その後の私が、アルバムでもコンサートでも、2曲目をたいへん重要視するようになったのは、案外ここが原点であったのかもしれません。


 3曲目の「雷神」は、グラビアで見ていたキッスのイメージにもっとも近い曲でしたが、私はなぜか、この曲をあまり好きになれませんでした。


 4曲目の「地獄の遺産」は、たいへんお気に入りの曲でした。それはたぶん、フレンチポップスを好んでいた私に、このドンスタドンスタというリズムやピアノが心地良く響いたからだと思われます。渋谷陽一氏はこの曲について、ボウイやモット・ザ・フープルを思わせると解説していましたが、その後の私が両者に熱中するようになったことは、偶然ではなかったように思われます。


 さて、LPではここからB面になるのですが、「燃えたぎる血気」・「スウィート・ペイン」・「狂気の叫び」という、アタマの3連チャンがとにかくスゴい。まさに、ハードロックかくあるべしっ、という怒濤の3連チャンでしょう。


 ドッシリとしたテンポのハード・ブギ「燃えたぎる血気」では、ほんのかすかにオルガンの音が聴こえていたりという、小さな発見に感動し…。

 つづいて、つっかかりながら進む、隠れた名曲「スウィート・ペイン」では、ちょっとエッチな歌詞やギュイ~ンとうなるギターが最高で、「俺も早く、スウィート・ペインを味わわせてやりたい」などと訳もわからず興奮し…。

 さらに、シングルカットされていた、最高にイカしたナンバー「狂気の叫び」では、リードギターがクィーンっとチョーキングで入り、ティラリララ、ティラリララとトリルで締める部分に感動し…。


 キッスの魅力のひとつに、この特徴的なギターサウンドがあります。彼らは、いわゆるマンガチックな表現で言うところの、

ビヨーンとかギュイ~ンとかクィーンという、理屈抜きにかっこいいエレキギターのサウンドをリスナーに教えてくれます。それは、おそらくデビュー当時のクラプトンがロンドン子たちを魅了した状況がこのようなものだったのではないか、と思われるものであり、はからずも私はこのアルバムでそれを体験することができたのです。


 「ベス」はじつは、当時も今もあまり好きではなく、このようなバラードでヒットを狙わなければならなかった、当時の音楽業界の事情に、少々複雑な感情を覚えたものです。


 そして、ラストの「ドゥ・ユー・ラブ・ミー」は、単純にノレて楽しめるナンバーです。リフは簡単でわかりやすいものがいいということを示した典型的なナンバーですが、このような曲で締めることで『地獄の軍団』の完成度が上がっていることは言うまでもないことでしょう。


 ずっと後になって、このアルバムがキッスのアルバムの中でも、特異な位置にあること、とくに、プロデューサーであるボブ・エズリンの意向が強く、多くの演奏は彼が連れてきたスタジオミュージシャンが演奏していて、キッスのメンバー(とくにエース)がそのことをあまりよく思っていないこと、などがわかり、たいへん驚きましたが、当時はそのようなことはまったくわかりませんから、単純に「キッスってスゴいなぁ」などと言いながら、楽しみまくったものです。


 このアルバムは、アタマで考える必要のない、理屈抜きで楽しめるサウンドが充満している作品です。さらに、ロックにおけるエレキギターの魅力を最大限に示している作品です。そういう意味では、ロック初心者が出会うには最適な作品だったといえるのではないでしょうか。


 余談ですが、私はキッスがあのように成功したのは、この理屈抜きで楽しめるという部分を強調したからだと思います。あのメーキャップはパーティの扮装のようなものであって、当初のイメージのような暗く禍々しいものではありませんでした。仮に彼らが暗く禍々しい要素を強調していたら、はたして成功することができたかどうかは疑問の生じるところです。当時の私が「雷神」だけを、当初のイメージ通りの曲であったにもかかわらず、なぜか好きになれなかったというのは、このへんに原因があるのかもしれません。どうやらこの曲だけが、理屈抜きで楽しめる曲ではなかったのです。(もっとも、ジーンがこの曲で血を吐くのをステージで見てからは、少し認識を改めましたが…)


 さて、このように、私は『地獄の軍団』でロックに入門することになりました。さらに私は、このアルバムで、すっかりエレキギターのサウンドに魅せられてしまい、これ以降、私の人生における最大の関心事は、エレキギターを手に入れること、そしてギターの腕前を上げること、さらにはバンドを組んでコンサートをすること、になったのです。



初期のキッスについて


 キッスのアルバムは、デビューからリアルタイムで日本に紹介されたわけではなく、まず、サードアルバム『地獄への接吻(DRESSED TO KILL)』が発売され、それから『地獄の狂獣(KISS ALIVE)』、『地獄の軍団(DESTROYER)』がリアルタイムで発売され、その後、ファースト、セカンドの順で、後追いの形で発売されたと記憶しています。


 『地獄の軍団』に衝撃を受けた私は、このような形で発売されたキッスのアルバムを、ファーストから順番に買い揃えたのでした。それは中学3年当時(1976年)のことです。


 それではまず、ファーストアルバム、『地獄からの使者/キッス(KISSKISS)』について、語ってみましょう。




SDE1

1.ストラッター(Strutter

2.ナッシン・トゥ・ルーズ(Nothin' To Lose

3.ファイヤーハウス(Firehouse

4.コールド・ジン(Cold Gin

5.レット・ミー・ノウ(Let Me Know


SIDE2

1.キッシン・タイム(Kissin' Time

2.デュース(Deuce

3.キッスのテーマ(Love Theme From KISS

4.10万年の彼方(100,000 Years

5.ブラック・ダイヤモンド(Black Diamond


 『地獄の軍団』よりもオドロオドロしいけれど、どことなく安っぽく感じられるジャケットに一抹の不安を覚えながら、針を落としてみると果たして…。「ドコドコドコトンッ、ジャララーンッ」と、軽やかに、そう、それはそれは軽やかに「ストラッター」が始まったのでした。


 軽い、あまりにも軽い、肩透かしを食らったように軽快なロックンロールに続いて、ポコポコとカウベルが鳴り、ピアノが入る、これまた軽快な「ナッシン・トゥ・ルーズ」が始まります。これはどことなく「狂気の叫び」を思わせる、印象的なリフレインの曲ですが、アメリカンポルノみたいな歌詞が大笑いで、とてもシリアスにはなれません。


 続いて、巷のウワサでは、この曲でジーンが火を吹くらしいと言われていた、「ファイヤーハウス」。本当はもっとヘヴィなイメージなのでしょうが、録音のせいか軽やかで薄っぺらいサウンドになっています。エンディングのサイレンがいかにもショボくて、なんだか情けない気分になっていると、「ファイヤーハウス」にそっくりな「コールド・ジン」が始まり…、(この2曲の並びはよろしくないですね)全曲を聴き終える頃には、なんだかどの曲も同じに聴こえ、退屈の極限に達したところで針が上がったのでした。


 キッスのサウンドが、ビジュアルから受けたイメージのように、暗く禍々しいものではないことは、すでに『地獄の軍団』でわかっていましたが、正直ここまで明るく軽やかに、スコーンと抜けた乾いた音を展開されると、少々複雑な思いにかられたものです。


 このアルバムがアメリカで発表されたのは、1974年。そして、デビュー当時の彼らは、ニューヨークで活動していました。後になっていろいろ考えてみると、ニューヨーク・ドールズとほぼ同じ時期に同じ場所で活動していたことに気がつきます。そういえば、『地獄からの使者』で聴ける軽快なロックンロールは、ニューヨーク・ドールズに通じるものがあります。


 グラムロックのブームが終わり、ニューヨークではパンクロックの動きが始まろうとしていた、まさにそのタイミングで、キッスはデビューしファーストアルバムを発表したのです。


 あのメーキャップはグラムロックからの流れであり、あのサウンドはニューヨークパンクの流れであるとすると、その誕生の経緯が理解できるというものです。あの軽さ、安っぽさはそれゆえのものかもしれません。


 また、このファーストアルバムは、当時のライブの定番曲で固められていたため、すでにしっかりできあがっていたバンドのコンセプトのおかげで、全曲が同じように聴こえたのかもしれません。見方を変えれば、デビューアルバムの時点で全曲が同じ方向性で統一されていた、完成度の高いサウンドである、ということになるのではないでしょうか。


 それは、とくにギターのトーンに関して顕著で、『地獄の軍団』で鳴りわたっていた、キュンキュンとうなるエース特有のリードギターは、すでにこのアルバムで聴くことができます。


 私はといえば、最初こそ戸惑いはしたものの、何回か聴くうちにすっかりこの軽いロックンロールが気に入ってしまい、中3の夏頃には毎日のように『地獄からの使者』を聴くようになりました。とくに「ストラッター」はこの後、私のフェイバリット・ソングとなり、今だにときどき聴いているほどです。


 さて、キッスのセカンドアルバム、『地獄の叫び/キッス(HOTTER THAN HELLKISS)』は、『地獄の軍団』までのアルバムの中では最後に日本国内で発売されました。




SDE1

1.ゴット・トゥ・チューズ(Got To Choose

2.パラサイト(Parasite

3.ゴーイン・ブラインド(Goin' Blind

4.ホッター・ザン・ヘル(Hotter Than Hell

5.レット・ミー・ゴー・ロックン・ロール(Let Me Go, Rock'n Roll


SIDE2

1.オール・ザ・ウェイ(All The Way

2.ウォッチン・ユー(Watchin' You

3.メインライン(Mainline

4.カミン・ホーム(Comin' Home

5.ストレンジ・ウェイズ(Strange Ways


 『地獄の叫び』は、まるで地下鉄が発するレールの軋み音のような金属的なギターのリフにつづいて、チョーキングのハモリが鮮やかに「クィーンクィーン」とくる、「ゴット・トゥ・チューズ」で幕を開けます。


 一聴するなり、「うわっ、重たい」。

 ファーストアルバム『地獄からの使者』とは、かなり違ったサウンドに仕上がっていました。


 つづいて、ギターの単音リフがカッコイイ、名曲の誉れ高い「パラサイト」。


 歪んだギターのアルペジオの間を、リードギターのようなベースがメロディを奏でる、ヘヴィ・バラード「ゴーイン・ブラインド」。


 歯切れのいいリフと、対照的に重たいサウンドが耳に残る、アルバム・タイトル・チューン「ホッター・ザン・ヘル」。


 前作における軽やかなサウンドはどこへやら、このアルバムのキッスは重金属的な重たいサウンドを聴かせています。それは、当時はまだ一般的な表現ではありませんでしたが、いわゆるヘヴィメタルサウンドそのものです。ドラムの残響処理に特徴があって、水平方向にペシャッと響くミョーなサウンドに仕上がっています。これがまた、全体のサウンドを重くしている要因のひとつでしょう。


 前作の延長線上にあるような作風の、「レット・ミー・ゴー・ロックン・ロール」も軽やかにならずひたすら重い。


 キッスはこのアルバムで、自分たちがハードロック・バンドであることを宣言したのです。


 『地獄の叫び』は、怒濤の勢いのA面に比べるとB面が少々気が抜けていて、「ウォッチン・ユー」以外はあまり聴きものがありませんが、ファンの間では「初期の最高傑作」、「キッスのヘヴィメタルな面を堪能したければ、このアルバムである」と言われつづけている作品です。(エースが弾きまくっていることでも有名です)


 しかし、彼らはこれほどの内容の作品にも、けっして満足することはなかったのでした。


 サードアルバム、『地獄への接吻/キッス(DRESSED TO KILLKISS)』へ続けましょう。




SDE1

1.ルーム・サービス(Room Service

2.トゥー・タイマー(Two Timer

3.レディス・イン・ウェイティング(Ladies In Waiting

4.ゲット・アウェイ(Getaway

5.ロック・ボトム(Rock Bottom


SIDE2

1.激しい愛を(C'mon And Love Me

2.あの娘のために(Anything For My Baby

3.彼女(She

4.すべての愛を(Love Her All I Can

5.ロックン・ロール・オール・ナイト(Rock And Roll All Nite


 このアルバムでは、前2作で聴かせた、軽やかなロックンロールとヘヴィメタル・サウンドがほどよくブレンドされていますが、最大の特徴は全体的にポップな音作りを心がけていることで、それは、シングルカットされた「激しい愛を」や「ロックン・ロール・オール・ナイト」に象徴されている通りです。


 ここで明らかになることは、キッスというバンドは、パンクロックやヘヴィメタルロックのマニアックな世界でそこそこの成功をおさめるのではなく、アメリカを代表するようなバンドになって大きな成功をおさめることを、当初から活動目的にしていたということです。


 『地獄への接吻』は、全米ヒットチャートに上がるような、シングル曲を意識した作りになっています。この点が前2作と大きく異なっているのです。


 しかし、アルバムを制作するに当たって収録曲の数が足らず、ジーン・シモンズはキッス以前に活動していたバンドの曲を持って来たという逸話があります。そのせいか、このアルバムは各曲の出来不出来のレベルの差が激しく、ポイントとなる曲以外はあまり聴くべきもののない作品になっています。

 こういうアルバムの作り方は、アメリカのバンド、とくにそれなりにヒット曲を持っているバンドによく見られるパターンです。みなさんは、シングルヒットした有名曲だけが聴きもので、あとはまったく聴く気にならないアルバムを体験したことがありませんか?


 このように、『地獄への接吻』は、シングルカット候補曲を中心に制作された作品です。その背景には、もうこのアルバムで結果が出なかったらすべてが終わりという、切羽詰まったバンドの事情があったようです。


 結果的に、シングルカットされた「ロックン・ロール・オール・ナイト」と「激しい愛を」が、デトロイトを中心としたローカルエリアでスマッシュヒットを放ったからよかったようなものの、これがなかったら、キッスというバンドは世に出ることなく終わってしまったかもしれません。


 この後、次作『地獄の狂獣(KISS ALIVE)』が、彼らの熱狂的なライブを伝える作品としてブレイクし、敏腕プロデューサー、ボブ・エズリンを迎えた、スタジオ作品の傑作『地獄の軍団』がブレイクしたことで、キッスは一気にスターダムをのし上がって行きました。このへんは、広く知られていることでしょう。


 このように、キッス初期の3枚のアルバムはそれぞれ違った印象の作品になっており、そこからは、未来のスターを夢見るミュージシャンが悪戦苦闘している姿が見えてくるのです。



キッスに関するオマケの話


 キッスのポール・スタンレイとジーン・シモンズは初期の段階で、「ビートルズ」をイメージしてバンドのコンセプトを作り上げたということです。


 これは、彼らが、残りの2人のメンバーである、ピーター・クリスとエース・フレーリーを選ぶ際に、演奏の腕より、声質がリンゴとジョージに似ているかどうかにコダワッたという逸話から明らかになったことです。

(とはいえ、その逸話以前に、ステージにおける、ジーン、エース、ポールの立ち位置が、初期のビートルスにそっくりではありますが…。)


 また、この事実を裏付ける話として、『地獄からの使者』・『地獄の叫び』・『地獄への接吻』という初期の3枚のアルバムのジャケットが、それぞれビートルズの『WITH THE BEATLES』・『MAGICAL MYSTERY TOUR』・『ABBEY ROAD』のパロディであるという指摘もあります。





 なるほど、並べてみると、たしかにその通りかもしれません。





エース・フレイリーのギター


http://matsuzack.jougennotuki.com/simpleVC_img/thumb_1211678644.jpg エース・フレイリーがキッスに加入する際に使用していた機材は、ギブソン・ファイヤーバードⅠとマーシャル・アンプ(50Wコンボ・タイプ)だったということです。


 ギターに詳しい人ならすぐにピンとくるかもしれませんが、これはクリーム時代のエリック・クラプトンと同じ機材です。


 エース・フレイリーはその後、ステージにおいては、ギブソン・レスポールとマーシャル・アンプを定番セットとするようになりますが、まれに、ギブソン・エクスプローラのコピーモデル(日本製)を手にすることがありました。これも、エリック・クラプトンからの影響でしょうか。


 キッスというバンドがその初期において、ビートルズをイメージしていたことは前述の通りですが、エース・フレイリーのギターは、機材からも明らかなように、エリック・クラプトン、それも、ブルース・ブレイカーズからクリーム時代の、エリック・クラプトンの影響が大です。


 楽曲の雰囲気を損なわないように、覚えやすいメロディでコンパクトにまとめられたギターソロには、クラプトン直系の、微妙な音程のチョーキングや大きなヴィブラートといった、ブルースギターのテクニックでいっぱいです。


 私は、そんなエースのギターソロを、たいへんセンスのいいものであると評価しております。


 しかし、バンドの方針なのか、エースの方針なのか、歌のバックではほとんどオブリガード等を入れず、ひたすらリズムギターに徹しているため、リードギターにスポットが当たる時間が極端に少なく、またあのメーキャップのおかげで、音楽的な評価を得る機会そのものにも恵まれず、結果として、エースのギターは過小評価されているのが現状です。


 これは、とても残念なことです。


 長尺のギターソロで自己主張するよりも、短くコンパクトにまとめる方が難易度が高いと思うのですが、いかがなものでしょう。


http://matsuzack.jougennotuki.com/simpleVC_img/thumb_1211678751.jpg

 さて、エースのようなタイプのギタリストは、海外ではあまり見かけないのですが、おもしろいことに、日本にはけっこういるのです。


 たとえば、キャロル時代の内海利勝さんや、ストリート・スライダーズ時代の土屋公平さんは、間違いなく、エース・タイプのギタリストです。


 つまり、ブルース・ブレイカーズからクリーム時代のエリック・クラプトンの影響が大でありながら、バンドのポップなサウンドを損なわないように、短くコンパクトにまとめるギターソロが多いこと。そういえば、バンドにもう一人、リズムギターを弾くギタリストがいることも、共通しています。


 これは、同じく、2本のギターでサウンドを組み立てている、エアロスミスのようなバンドとは少し違った手法で、どうやら、目指すべき存在がビートルズなのかストーンズなのかで、分かれ道になるようです。(ストリート・スライダーズは、ルックスのおかげでストーンズ派に分類されがちですが、バンドのコンセプトは間違いなくビートルズ派です)


 最後に、いまでも私の記憶に残るエース・フレイリーのギターソロ・ベストテイクですが、「ショック・ミー/アルバム『ラブ・ガン』収録」・「ロケット・ライド/アルバム『アライブⅡ』収録」・「スノウ・ブラインド/ソロアルバムに収録」といったところでしょうか。いずれの曲も、エース節全開ではあるものの、けっこうプッツンいきそうになる部分があって、おもしろいサンプルだと思います。




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 私をロックへと導いた『地獄の軍団』は、キッスの出世作として位置付けられるものの、本人達はその手法をよしとせず、次作『地獄のロック・ファイヤー(ROCK AND ROLL OVER)』ではもう一度原点に戻ったようなサウンドを展開します。キッスが『地獄の軍団』の手法を自分達のものとするのは、その次のアルバム『ラブ・ガン』においてでした。


 そう考えると、キッス・サウンドの完成は『ラブ・ガン』ということになるのですが、その頃の私の興味の中心はすでに他のバンドへ移っていたため、『地獄の軍団』のような感動を得ることはありませんでした。


 しかし、キッスのキャリアはその後も続き、メンバーチェンジを経たりメイキャップをやめたり、さまざまな困難を乗り越えながら、アメリカン・ハードロックの王者の地位を守っていきます。その姿は、まさに1編のサクセスストーリーであり、アメリカン・ドリームの体現として賛辞すべきものでしょう。



(初出;ブログ『ROCKのある風景』2008.5.4、5.11、5.14、5.18、5.25)