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                      |  | 17の夏空にUFO |  |  | 
                      | あれは、高校生活最後の夏休みを目前に控えた、1979年の6月のことだった。 俺は、高校の廊下で、2年の時同じクラスだった、QUEENファンのS江に呼び止められた。
 「たしか、UFO好きだって言ってたよね?」
 「あぁ…、好きだよ。マイケル・シェンカー!」
 「マイケル脱退しちゃったから、ダメかぁ…。」
 「?」
 「…あのね、今夜のUFOのチケットがあるんだけど、いっしょに行かない?」
 俺は即答でOKした。なぜ、そんな気になったのかは、よく覚えていない。
 
 その日は特に予定がなかったので、たいして持ち合わせがなく、S江に晩メシをおごったら、帰りの電車賃ぐらいしか残らなかった。おかげで、パンフすら買えなかった。
 
 空席が目立つ会場に向かって、UFOはあまり気合の入っていない演奏をかました。
 気合は入っていなかったけど、メンバーは妙に楽しそうだった。
 そして俺らも、スゴク楽しんだことを覚えている。
 
 でも、UFOの演奏はあまりよく覚えていない。
 記憶にあるのは、楽しそうに笑うS江の顔ばかり…。
 学校ではおとなしくて存在感のない娘だったので、ちょっと意外な素顔だった。
 
 へぇ…。コイツ、ずいぶん歯並びが綺麗なんだ。
 少し大きめの八重歯が、チャームポイントかな?
 けっこう、笑顔がカワイイじゃん…。
 
 コンサートが終わって、途中まで同じ地下鉄に乗って帰った。
 俺が「送って行こうか?」と言うと、S江は「ありがとう、でもだいじょうぶだよ。」と言ったので、K駅でバイバイした。
 
 S江との接点はそれっきりだった。
 
 それ以降、彼女は人前でそのことを一度も口にしなかった。
 俺も、悪友たちには何も言わなかった。
 当時の俺には、他にレッキとしたカノジョがいたからだ。
 
 それから、20年近く時が過ぎた。
 
 俺は、同窓会でS江と再会した。
 彼女は立派な主婦になっていたが、初々しい笑顔は当時のままだった。
 俺のグラスにビールを注ぎながら、S江が話かけてきた。
 
 「覚えてる?二人でUFOのコンサートに行ったこと。」
 「忘れるわけないじゃん!でも、オマエ、何で俺を誘ったの?」
 「…今だから白状するけど。いっしょに行くことになっていた彼氏にフラレちゃったからなの。」
 「それで、俺かぁ?でも、まぁ楽しかったから、よかったじゃん。」
 「うん、楽しかったね…。でも私変なの、UFOのことはほとんど覚えていないの。」
 「?」
 
 S江の瞳が一瞬、潤んでいるように見えたのは、酒に酔ったせいだろうか?
 「記憶に残っているのはねぇ…。あなたの横顔とか、ゴハンおごってくれたこととか、帰り道に話した事とか…、そんなことばっかりなの。」
 
 えっ?俺の胸の奥が、軽くトクンと鳴った。
 コイツ、俺と同じだ…。
 
 「ハハハ…。ヘンなやつー!」
 とっさに、俺はS江とカンパイをした…。
 「そうよね…。ヘンだよねー!」
 彼女も、一瞬にして何かを振り払ったようだった。
 
 なんだか、忘れていた落とし物を、二人で見つけたような気がした。
 今さら見つけても、何の役にも立たない落とし物だけど…。
 
 17歳の夏。
 青い空と白い雲。
 UFOと俺たち。
 
 青春ってやつかなぁ?
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                      | ↓同じステージの続き。 左:フィル・モッグ(Vo)、右:ピート・ウェイ(B)、
 後方:アンディ・パーカー(Ds)。
 躍進中のバンドならではの、オーラと熱気にあふれた、
 貴重な瞬間が見事にとらえられている。
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                      | ↑夏川翠さんが撮影した、1974年マーキーにおけるUFO。 フライングVをかまえる、マイケル・シェンカー!
 
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                      |  |  | 画像提供: |  |  |  | 
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