左手親指の話
PINK FLOYD の『THE DARK SIDE OF THE MOON』を語った際に、“プログレッシブ・ロック”系のギタリストにはクラシックやジャズ出身の人が多く、いわゆる通常のロック・ギターとは違うマナーを身につけているため、私には少々近寄り難い存在ばかりでした。”と述べましたが、“通常のロック・ギターとは違うマナー”とは、早い話が、演奏中に左手親指(弦を押さえる方です)がどこにあるか?ということなのです。
ブルース・ギターをベースとするロック・ギターでは、左手親指はギターのネックの6弦側に、正面から見てもその存在が確認できる位置にあります。つまり、左手でネックを握るような感じになるのですが、こうなることで、ビブラートをかける際には、弦と垂直な方向へ力がかかります。
これに対して、クラシックやジャズギターでは、左手親指はギターのネックの背中、指板の裏側にあり、正面からはその存在が確認できません。ビブラートをかける際には、弦と平行な方向へ力がかかります。
(※ 厳密に言えば、演奏内容によって両者を適当に使い分ける場合もあるわけですが、ここではあくまでも基本的な演奏スタイルがどちらによるものか、という観点で話を進めていくことにします。)
左手親指をギターのネックの背中に置くスタイルでジミー・ペイジのように低い位置でギターをかまえようとすると、足元まで届くような手の長さが必要となり、オランウータンやチンパンジーでもない限り、そんなことはできなくなってしまいます。
そこで、左手親指をギターのネックの背中に置くクラシックやジャズギターのスタイルでは、スティーブ・ハウ(イエス)のように脇の下あたりで抱えるほどギターの位置を上にするか、ロバート・フリップ(キング・クリムゾン)のようにいっそ座ってしまうか、という対応をせざるを得なくなります。
これは、キース・リチャーズに憧れてこの世界に入った少年にとって、耐えられない程イカさないことでした。
中学3年の頃(1976年)、NHKのヤングミュージックショウでイエスを見た際、その圧倒的な演奏に感動したものの、スティーブ・ハウの立ち姿に違和感を覚えたものです。
「バタやんか?」(=田端義男さんのことです)
またキング・クリムゾンでは、グレッグ・レイクが「おい、キノコみたいだから、座るのをやめろ」と言ったとか…。
おもしろいのは、ジェネシスのスティーブ・ハケットで、当初は左手親指をギターのネックの背中に置くスタイルでステージでも座って演奏していたのですが、ピーター・ガブリエル脱退後は突如として立って演奏するようになり、ソロ以降は、しっかりと左手親指がギターのネックの6弦側に出てきていたという、途中でスタイルを変えた珍しい例になっています。
そういえば、スティーブ・ハウもエイジアでは、それほど高い位置でギターを抱えておりませんでした。つまり、トレーニングである程度どうにでもなるレベルなのですが、ロバート・フリップだけは、相変わらずのようです。
たかが左手親指、と思うかもしれませんが、どうやらこんな部分にもギタリストの主張が表れているようです。
いずれにしても当時の私は、ペケペケした音で複雑なフレーズを弾きこなすギタリストより、デイブ・ギルモアの「クィ~ン」と伸びるチョ-キング一発の方に、より親近感を持ったということです。