第7話「バンドもバランス感覚が大切」 今年は昨年に増して活動が停滞し、さらに私自身のバンドに対するモチベーションが低下したおかげで、公式ライブはまたもや年末恒例の「中央大学軽音楽同好会OB忘年会」のみとなってしまった。 しかしどんな年であれ、最低1回はライブが予定されているというのは、たいへんありがたいことだといえる。たとえどんな状態であれ、ライブはその時の姿を克明に映し出すことができるからだ。 さて今年は、どのような姿が記録されたのだろう。 date:2008.12.6 place:「吉祥寺 曼陀羅2」 1, ROCK'N' ROLL SUICIDE(DAVID BOWIE/初演) 2, ALADDIN SANE(DAVID BOWIE/初演) 3, 組曲 神曲:煉獄編(オリジナル) 4, :地獄編(オリジナル/初演) 5, :天国編(オリジナル/初演) 6, 20TH CENTURY BOY(T.REX/初演) 活動が停滞していたにもかかわらず、当日演奏した6曲中5曲が初演という、メンバー自身も驚く結果となったが、やはりリハーサル不足と各曲の消化不良は否めず、納得のいく演奏を披露することはできなかった。
1曲目、2曲目はデヴィッド・ボウイのナンバーだが、かなりの異色作。とくに「ALADDIN SANE」はアヴァンギャルドな面が強調されており、新境地開拓か?と期待されたが、単にメチャクチャなだけの荒い演奏に終わってしまった。 アヴァンギャルドがメチャクチャにならないようにするには、それなりの修練が必要であり、そこにはかなり高度な技術とチームワークが必要だということを痛感した。1970年代のマイルス・デイヴィス・グループなどでは、それぞれの演奏者が他の音をよく聴いていることがわかるが、それは簡単にできることではない。
3曲目の「神曲 煉獄編」は昨年初演だった、ダンテの「神曲」にインスパイアされた曲。そこで予告したように、今年はこの曲の続編として「地獄編」と「天国編」が完成し、初めてフルヴァージョンを披露することができた。 今年一番の収穫は、この三部作が完成したことで、ここに至って我々のオリジナリティは完成されたものと思われたが、メンバー全員が同じように認識していたかどうかはわからない。
6曲目の「20TH CENTURY BOY」は今年を象徴する1曲ということで、女性コーラス隊2名を加えてにぎやかに盛り上げた。この曲については、私とヴォーカルのmarcさんは20歳前後の頃に演奏したことがあり、昔を知っている仲間から「このリフはよく似合うよね、matsuZACK節ってヤツかな?」などと言われてしまった。たしかに…、このリフは得意である。
さて、演奏という具体的な形になったことで、私の中にあったバンドに対するモヤモヤがはっきりとした。それはここ数年、活動の場がこの身内の忘年会に限られたことによって、メンバーが無意識のうちに、何を表現するかではなく、「いかにしてウケルか」「いかにして人目を惹くか」に注力するようになっていたということである。
その結果、我々の個性であった、都会的で、ストイックなまでにクールな、そしてどことなく退廃的な音と相対する要素が少しずつ大きくなり、昨年あたりから、全体的なバランスを崩すまでに至っていたのである。 どうやらそれが、私にはたまらなく居心地の悪いものであったようだ。 私は今年の後半になって、なんとなくそのことに気づき、今回の選曲にデヴィッド・ボウイのナンバーを加え、原点回帰することでバンドの軌道修正を図ろうとした。しかし、結果が出せたとは言い難く、今はただ、来年の活動に期待するしかない。
「組曲 神曲」などを完成させたバンドなのだから、忘年会の宴会バンドで終わるのではなく、もっと自分達の世界を大事にすべきだし、その完成度を高めることに注力すべきである。なぜなら、聴衆はそれを期待しており、たとえ一人でも我々を見に来ているお客さんがいる以上、バンドはその期待に応えるべきだと思うからだ。
来年は、“硬派”復活である。
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